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最高裁判所第一小法廷 昭和31年(オ)686号 判決 1960年10月27日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人鍛冶利一名義の上告理由第一点について。

原審の確定したところによれば、本件不動産の買戻契約に際し、財産税等は被上告人の負担とし、これを一応金三万円と見積り、被上告人が上告人に右金員を支払えば、本件各不動産の残りである畑四筆を被上告人に返還し、その所有権移転登記手続をなし、後日財産税額が判明次第清算する旨の約定が本件当事者間に成立したというのである。従つて右約定は双務契約であり、被上告人の三万円の給付に対しては、畑四筆の所有権移転が対価関係をなし、且つ特別事情の認められていない本件にあつては、右両者は同時履行の関係にあつたものと推定すべく、原判決が「財産税等と引換に本件畑四筆の返還を約した契約云々」と判示しているのもその趣旨に出でたものと解するのを相当とする。ところで、本件においては、被上告人は、本件催告を受けた当時は未だ遅滞にあつたわけではないから、右催告が契約解除の前提となりうるためには、催告と同時に被上告人が遅滞に付せられることを要するものであるところ、約定が双務契約であり、双方の債務が同時履行の関係にあるとみるを相当とすること前記のとおりである本件においては、上告人は、自己の債務の提供として、すくなくとも県知事の許可の手続に協力する等登記手続に協力することにより、被上告人を遅滞に付することが必要であるが、上告人はかかる必要な手続をした旨の主張、立証は何らなされていない。従つて本件催告はこの点において既に契約解除の前提としての有効な催告と認め得ないばかりでなく、原審の認定したところによれば、被上告人は昭和二一年六月末頃金三万円を調達して上告人方へ持参し、受領を求めたところ、上告人は税額は三万五千円であるといいだし、更に一、二日後三万五千円を持参提供したところ、今度は税額は四万円であるといつて受取らないため、被上告人は更に四万円を持参提供して税額につき納得のゆく説明を求めたが、これをしないため、四万円を供託するというと、供託ではいけないというので、被上告人の真意を測りかね、これを持ち帰り、同年八月二七日山口市の小河弁護士に上告人に対する該畑四筆の所有権移転登記手続請求の提訴方を依頼するに至つたというのであり、なお、原審は、上告人は、被上告人が約旨の三万円および上告人の要求による三万五千円、四万円を持参して提供をなしたときこれを拒みその都度受領遅滞の状態にあつたことを判示しているのである。しからば、かかる受領遅滞にある上告人としては、契約解除の前提としての催告をするがためには、被上告人に対し右受領遅滞を解消せしめるに足る意思表示をした上、右三万円の請求をすべきであつて、これなしに漫然その支払のみを請求しても契約解除の前提としての適法な催告をしたものとは認められない。されば、本件催告は以上いずれの点よりするも契約解除の前提としての催告としては無効のものであり、この点に関する原判示は結局正当である。所論は、右と異なる見解の下に原判決を非難するものであつて、採るを得ない。

同第二点について。

本件催告が、契約解除の前提としての催告としては無効であることは、上告理由第一点に対する説示中に述べたとおりである。しからば、被上告人が右催告に対し、催告に定められた金員の支払をしなかつたからといつて、本件畑地の返還請求権を失うことのないことは当然であり、原審の、本件催告が契約解除の前提としては無効であり、財産税、取得税と引換えに本件畑四筆の返還を約した当初の契約は依然存続するものというべきである旨の判示は、所論の上告人の抗弁をも排斥した趣旨であることは、判文の全趣旨から窺うことができる。それ故、所論の違法は認められない。

同第三点について。

上告人提出の答弁書第三項には所論取消の意思表示をなした旨の記載があり、これは昭和二四年三月二四日の口頭弁論で陳述されているが、右主張は、昭和二六年二月一九日の口頭弁論において陳述された同月三日附準備書面三において撤回されている(記録一九一丁裏参照)。それ故、原審がこの点につき判断を与えていないことは当然であつて、所論の違法は認められない。

同第四点について。

所論の点に関する原審の事実認定は、挙示の証拠により是認できる。所論は原審の裁量に属する証拠の取捨、事実の認定を非難するに帰し、採るを得ない。

上告代理人神田静雄、同出原実の上告理由第一点について。

本件催告が契約解除の前提としての催告としては無効のものであることは、上告代理人鍛冶利一名義の上告理由第一点に対する説示において述べたとおりである。所論はこれと異なる見解の下に原判決を非難するものであつて、採るを得ない。

同第二点について。

論旨のような主張は、原審においてなされていないのであつて、所論は適法な上告理由に当らない。(なお、本件が先履行または条件附契約であることは原審の認めなかつたところであり、原審の右判断は正当である。)

同第三点について。

原判決に所論のような違法のないことは、上告代理人鍛冶利一名義の上告理由第二点に対する説示において述べたとおりである。それ故所論は採るを得ない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 下飯坂潤夫)

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